司令塔
サッカーのテレビ中継で、たまに「誰々が司令塔」という表現を聞くことがあります。
ピッチ上の22名の選手の動きは流動的で予測の難しいものです。しかし、もしも「司令塔」という言い方が成り立つなら、ゲームの流れを把握するのは非常に楽です。「司令塔」だけ追っていれば状況が理解できることになるからです。しかし、現実には一人の選手の動きだけでゲームの全体の流れを説明することは不可能ではないかと思います。にもかかわらず、なぜか「司令塔」という言い方は好まれるようです。
複雑で理解しにくい状況を、実はスーパーマンのような存在がすべてコントロールしていると解釈するわけです。「誰かが後ろで糸を引いている」という、ものの見方です。ある種のフィクションを立ち上げることによって状況把握の錯覚を起こし、不安を解消しようとする心理といえるかも知れません。「司令塔」と似たような効果のある言葉に「黒幕」という言い方があります。
朝日新聞朝刊本日掲載の内田樹さん「私の紙面批評」の「陰謀史観」のくだりを読んで、そんなことを考えました。