平成3年香川判決をめぐる月報司法書士の論考
平成3年香川判決と呼ばれる判決があります。現在の相続登記の実務に絶大な影響を与えている判決です。最高裁ホームページの裁判例検索ページでその趣旨が公開されていますので,引用します。
「一 特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言は,遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り,当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。
二 特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言があった場合には,当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,当該遺産は,被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。」
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最判平成3年4月19日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?
action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=25807&hanreiKbn=01
この判決は,司法書士にとっては登記実務の基礎知識として,なじみが深いものです。しかし,学説の多数説がこの判決に反対する立場とをとっている,という興味深い記事が月報司法書士12月号に掲載されています。立命館大学法学部本山敦教授の「香川判決の遺産」と題する論考です。
月報司法書士バックナンバー(ただし,本日現在は2006年9月号まで掲載)
http://www.shiho-shoshi.or.jp/web/publish/geppou/index.html
それによると,学説の多数説は香川判決に対し「共同相続人間の平等性,公平性に著しく反する事態が生じうるから」という理由で反対しているということです。具体的には,「特定の遺産を相続させる」遺言が直ちに特定の相続人への権利帰属の効果をもたらしてしまうので,他の共同相続人には遺産分割を行なう余地が無く,寄与分を主張する機会すら与えられなくなってしまう,というケースが示されています。この場合,遺留分減殺請求権が行使される余地はあります。しかし,兄弟姉妹間の相続のように,そもそも遺留分減殺請求権がないケースでは,これも不可能です。寄与分も遺留分減殺請求権も,共同相続人間の平等性,公平性確保のための制度ですが,このような制度利用の可能性を「特定の遺産を相続させる」遺言が排除してしまう点に,問題があるというわけです。
香川判決と学説のそれぞれの根底にあるものについて,本山教授は遺言者の意思尊重の立場と相続人間の平等性・公平性の実現の立場の違い,と評しています。民法は遺言相続を原則とし,法定相続を補充的な制度と位置づけています。私的自治の原則,所有権絶対の原則に基づくものです。本山教授はこの立場を認めながらも,「遺言が相続紛争をむしろ激化させていないだろうか。遺言がかえって不正義に加担していないだろうか」と鋭く指摘しています。
私なりに考えれば,紛争激化が予想されるような遺言者の処分を「特定の遺産を相続させる」遺言が可能にしてしまっている側面は,否定できないように思います。遺言者に,あまりに強力かつ直接的な効果のあるフリーハンドを与えてしまう,ということかもしれません。遺言者にたいし,不利益を被る他の共同相続人の救済措置を,あらかじめ排除する手段を簡単に与えてしまう,ということにもなりかねないからです。なお,同じような効果のある制度に,廃除の制度(民法892条ないし895条)がありますが,この場合は家庭裁判所の関与が必要です。
この記事は「遺言が内容によっては諸刃の剣にもなりうることを理解し,それをふまえたアドバイスや説明を心がけることが重要」と説くもの,とも読めるのではないかと受け止めています。


コメント
そのとおりですね。でも、わたしの印象では遺言を書いている人は、ほんとにごくごく一部です。遺言があればなあ、・・・と思うほうが、ほとんどです。遺言さえれば、こんな醜い争いをしないで済むのに。遺言さえあれば、兄弟姉妹見たこともない甥姪の相続などとの協議などなかったのに。遺言の内容の前に、遺言をもっと知って欲しいのが現実です。いろいろお世話になりました。来年も良いお年を。
投稿者: shima | 2006年12月28日 12:11
shimaさん,コメント有り難うございます。
おっしゃるとおりだと思います。遺言の内容も重要ですが,書けるうちに書いてもらうこと自体が,なによりまず重要ですね。
投稿者: 田島 掌 | 2006年12月28日 12:33