補欠監査役が一名のときは任期短縮規定が働かないとするのが従来の登記実務でしたが,会社法施行によりこの取扱いが変更され,任期短縮規定の適用を受けることとなりましたので,注意が必要です。その理由については,以下の通りです。
会社法では,「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる」と定められました(会社法329条2項)。これは,商法にはなかった取締役の補欠役員に関する規定を,会社法で明文化したものといえます。図式的にいうと,
欠員に備えて補欠をあらかじめ選任する規定
商法 → 会社法
取締役に関して なし → 会社法329条2項
(取締役,会計参与,監査役)
となります。ここで,この規定が取締役だけでなく「役員」すなわち取締役,会計参与及び監査役の3つについての規定であることに注意が必要です(会社法329条1項)。また,この補欠役員の任期の起算点は就任承諾のときからではなく,株主総会で株主が選任した時からです(会社法332条1項,334条1項,336条1項)。これは任期を被選任者の就任の時期に左右されることなく定めることで,株主が補欠役員に与えた任期を明確化するものです。
一方,似たような規定として,監査役については商法時代から補欠監査役の任期短縮の規定がありました。監査役の任期は法的任期として,原則として伸長も短縮もできませんが,監査役が任期途中に辞任等をし,株主総会で新たに監査役を選任する場合に,その任期を前任監査役の任期の満了する時までとする,という規定をあらかじめ定款に定めるものです。
監査役の法定任期を補欠に限り例外的に短縮する規定
商法 → 会社法
監査役 商法273条3項 → 会社法336条3項(引き継ぎ)
この補欠監査役の任期短縮の規定を定款に定めないと,複数監査役がある場合には監査役の任期はそれぞれがまちまちになってしまいます。したがって,補欠監査役の任期短縮の規定を定款に定める実益は,複数監査役の退任時期をそろえることにあるわけです。そうすると,このような必要のない場合,たとえば監査役が一名しかいない場合は,この定款に定めがあったとしても補欠監査役の任期短縮の規定は働かない,と解釈することになります。これが従来の登記実務の考え方でした。
ところが,会社法施行後は上記の監査役が一名しかいない場合であったとしても,定款の補欠監査役の任期短縮の規定は働く,となり取扱いが変更されました(登記研究6月号P.200質疑応答)。
この取扱い変更の意味を解釈すると,これは,会社法が補欠役員の規定を明文化(会社法329条2項)したことにより,
1 補欠役員そのものが会社法に正式に位置づけられた
2 補欠役員の任期は選任時からとなり,任期に関しては株主の意志による
ものとした
となったためではないかと思われます。上記1,2の考え方を補欠監査役の法定任期短縮の規定に当てはめると,
1 補欠役員が明文で一律に定められた以上,補欠監査役の法定任期短縮
規定についても,その適用の有無は実務上の実益によって左右されない
と考えるべき
2 補欠監査役の任期も株主の意志によるべき
となり,補欠監査役が一名であっても任期短縮されるという結論になったものと思われます。